ヤケクソの朝が来た 絶望の朝・・・

“金曜日は パン買って 花買って ワインを買って帰りまーす”というCMソングが流れていた頃、私は“ヤケクソの・・”歌を歌う「じゃりんこチエ」のチエちゃんにすっかり入れ込んでいまして、全集を買い入れて年中読み返しておりました。世の中がまだ、今より少し緩やかだったころの話です。
”ヤケクソ…“はNHKのラジオ体操の替え歌であることは説明するまでもないことですが、漫画の中でチエちゃんが歌うと、もうまるでこの本のために創られたと思われるほどのぴったり感なのです(しかし、チエちゃんは決して絶望なんかしない)。この漫画の作者「はるき 悦巳」の抜群のセンスが生きているフレーズでした。故井上 ひさしにハイレベルの文学とまで言われたこの漫画は、あの高畑 勲が監督するアニメにもなって、今でもコアなファン(私も含めて)が多いはずです。
「じゃりんこチエ」の世界は、冒頭のCMソングとは全く異次元とも言うべき世界ですから、花と言えば“おいちょ”や花札賭博、酒と言えば焼酎という、およそ子供が主人公とは思えない環境設定の中で、文字通り力強く生きてゆく「チエ」という女の子を通して・・・、まあ本の解説ではないですからその辺りは置いといて、この“ヤケクソ・・・”の歌を歌いたくなるような昨今のご時世に、つい最近に台湾で起きた学生たちの「立法院封鎖」事件の折、封鎖解除にあたって民主主義の本質とも言えるような出来事があったと、作家の高橋 源一郎が朝日朝刊(5月29日付)に書いていたのです。要するに物事を決定する時に少数意見をどこまで尊重すべきなのか、それは可能なのか、といった問いかけに対する一つの解答とも呼べる行為が、確かにそこにはあって尚且つ実践されたということ、そして私たちは「(正しい)民主主義というものを一度ももったことなどない」という感想がともに書かれていました。
チエちゃんの周辺は、テツや花井先生やヒラメちゃん、マサルとその腰ぎんちゃくなど多くのキャラクターが登場します。そしてその人物たちが対等にお互いを認め合っています。名もないヤクザでさえ存在感を持って登場します。もちろん、準主役とも言うべき「小鉄」「ジュニア」という猫も登場します。あそこには正しい民主主義があったように思えるのです。各々の意見の違いを認めてその上で尊重することを忘れない、そんな世界が描かれていたように思います。
ヤケクソで絶望の朝ばかり来るけど、たまには“源さん”の書いているような光景を見たいものと、はかない望みを抱きます。

この頭のラインが小鉄にそっくりと・・