ベートホーフェン

毎年恒例とも言うべき「第九」の季節が来ました。戦後に始まったと言われるこのイベントは、今では年末の定番でありクラシック音楽業界のかきいれ時目玉商品とも言える売れ筋となっています。この「第九」のお目当ては何と言っても第4楽章の合唱にあります。交響曲の中に合唱を入れるというそれまでには無かったスタイルは、発表当時はほとんど評価されなかったと言われています。しかし今では大人気の一曲で、世界中のオーケストラで演奏される演目です。
ところが、ある本によるとこの「第九」の合唱部分は、削られたかもしれないという話が有ったというのです。石井 宏著の「ベートーヴェンベートホーフェン」がその本です。この本ではまず名前の読み方からして「ベートーヴェン」ではなく「ベートホーフェン」であると解説されています。その他“ベートホーフェン”に関するもろもろの新事実?が紹介されていて、ベートーヴェン信奉者にとってはびっくりすると言うかがっかりすると言うか、なかなか面白い本でした。「第九」の合唱部分についても初演時の失敗や不評やらで、ベートーヴェン本人が第4楽章の削除を同意していた手紙を書いていたことなどが明らかにされています。また日本独特の「第九」騒ぎに著者はかなり批判的らしく、合唱目当ての演奏なら“前置きの三楽章など…パチンコ屋の軍艦マーチで十分・・”とまで書いています。また、ベートーヴェン自身がこの第四楽章冒頭で、“おおこんな音楽ではない、もっと快い歌を、歓喜の歌を・・”と前の三楽章を否定するかのような文言をバリトンの独唱で歌わせている部分を紹介しています。しかしこれは合唱部分を際立たせるためのテクニックらしく、その証拠に第一楽章から第三楽章までの完成度は比類のないものと言われます。ですからベートーヴェンもむしろ第四楽章を独立したものとして切り離してもよい、と思っていたと言うことのようです。
ベートーヴェンベートホーフェンと呼ばれるにはまだ時間がかかりそうですが、緻密な構成力と圧倒的な大音量で聴く者を引き付けるかの音楽は、かなり屈折したヒトから生み出されていたらしいと思うと感慨深いものがあります。

屈折した体