王の手

 “手かざし”というのが以前に流行った。流行ったと言っても宗教がらみの眉唾だったので一般化した訳ではないが、駅頭などで何やら佇み他人の頭の上に手をかざしている姿を良く見かけた。その頃私は原宿の駅を利用していたのだが、駅前の広場や表参道の歩道で若い女性に「あなたの大切な人の幸福を祈りませんか」などと言われたのを覚えている。   
 映画「指輪物語」の三話目だったと思うが、ビゴー・モーテッセン演じるアラゴルンが負傷した友人に手かざしをするシーンがあった。アラゴルンは人間の王の子孫であり、特殊な能力を持っているがそのひとつに“癒しの手”という技を使ったのだ。私は宗教家でもなくもちろん王の家系でもないから手かざしの技など使うべくもないが、あの技は便利なものと、会得できるものなら会得したいと思ったものだった。
 中国の気功という何やら怪しげな術があるらしいが、あれも手をかざして治療するという。身体の気を集中させて手から放出させるというのだ。患部に当てることで場合によっては治癒することもあるという。西洋医学の立場からすれば眉唾ものの迷信だと一笑に付されそうだが、中国では気功師という職業もあるそうだから一概には馬鹿に出来ないのかも知れない。それと同じようなことをする人がこの国にも居ると聞いたことがある。その方法がどんなものであったかよく覚えていないが、とにかく痛みを取ることが中心の治療だったように記憶している。整体師のような治療を施すことで末期がんの痛みなども取り除くという。
 加齢によって身体のあちこちが痛み使い物にならなくなるのは避けられない。耐用年数が来ているのだからジタバタしても始まらない、そこで治癒はどうでも良いから痛みと日常生活を送れなくなるのを何とかして欲しいと思う。“王の手は癒しの手”というのを健康保険でやってもらいたいものだ。あちらの世界に行く時ぐらいは静かに穏やかに行きたい。

手かざしの術