ストーリー・テーラー

 今読んでいる本はイギリスの作家のもので「ビューティフル・ボーイ(原題は“Man and Boy”)」というシングル・ファーザーとその子供の話の、言わばイギリス版「クレイマー・クレイマー」みたいな内容の本です。現代のイギリスの、きっと普通の生活が描かれているのだろうと思います。現代作家のリアルタイムを描いた作品は、その時その場所で進行している生の生活の断面を切り取って見せてくれる、もちろん作家の力量にもよりますが、そういった面白さがあります。話を紡いで仕立てていくという作業は、様々な色や形を織り込んでいく作家の腕の見せ所ですから、いろんな手法を駆使して読者を話の中に引きずり込む工夫を凝らします。時代ものは華やかな色合いであったり、SFはフォルムやシルエットにも気を使うようです。日常生活を描くものは淡々とした中にある不思議や発見をそれとなく散りばめる仕掛けを施し、普段気がつかない世界を表現することに力を注ぐのでしょう。
 この本は一人の男の離婚や次に現れた新しいパートナー、子供との葛藤など、定番のメニュウの中で話が展開してゆきます。決して目新しい事柄があるのではなく、それこそ退屈な物語と言えばそうも言えるのです。けれど丁寧に書きこまれた日常生活が織りなす静かなテンポの物語は、さすがストーリー・テーラーの本場物と思わせるに十分な内容となっています。スコッチの20年物を飲むような味わいのある(飲んだこと無いけど)作品と言えると思います、などと気取ったことを書きたくなる本です。

なに、寝てるばかりいるって・・。