戦闘機乗り

男の子の憧れるものにレーシングドライバーパイロットがあります。中でもパイロットは戦闘機乗りが一番の憧れです。私は今でもなれるものなら戦闘機のパイロットになりたいと思っています。もちろんシンガーソングライターにも絵描きにもなりたいのですが、戦闘機乗りになっても良いと思っているのです。運動神経も視力もそして頭も悪いのでパイロットになどなれっこないし、フライトシュミレーションでは一番易しいセスナを飛ばすのがやっとで、ジェット戦闘機やジャンボ機は離陸と同時に落としたりして、何百人もの乗客を殺してしまうというまともな操縦さえできないレベルですから、望むことすら無理な夢ですが戦闘機乗りには憧れます。「単独飛行/ロアルド・ダール著」という本を読んで久しぶりに昔の夢が想い出されました。
この「単独飛行」という本は著者の青年期の話で、ほとんどノンフィクションだそうです。第2次大戦の直前から戦中にかけて、イギリスの植民地であったアフリカ・タンザニアでの生活や、その後戦争が始まると空軍に入り戦闘機乗りになってリビアギリシャで空中戦を経験する話です。びっくりしたのは、その当時イギリス空軍はかなり簡単にパイロットになれたようなのです。本国と植民地では扱いや基準が違ったのかもしれませんが、現地空軍に入隊して半年間の訓練を受ければパイロットとして配属されたのです。更に驚くのは、実戦経験の全くないパイロットを単独で哨戒飛行に出すことです。著者は最初の配属地に向かう途中墜落して入院、回復後は訓練も何もなく任地に行き、そこですぐに単独で実戦に出されたのです。その後すべて単独飛行による空中戦を戦うという、信じられない経験をします。本の題名「単独飛行」はロマンチックな命名ではなく、現実のそのままの状況を表したものだったのです。それでもあの時代の飛行機乗りは、空を飛ぶことにロマンを感じている人達で、過酷な現実(配属地のパイロット15人のうち一月も経たずに8人は戦死する)にも拘らず悲壮感はない様子なのです。どうも戦闘機乗りは“殺し合う”という実感を伴わない戦闘員なのかも知れません。それとも圧倒的な戦力差(ドイツ空軍の戦闘機500機に対してイギリス空軍は15機)が現実味を失わせてしまったとでも言うのでしょうか。
ともあれ書かれたものを読む限りでは、“古き良き時代”の空中戦を感じさせるロマンチックな経験談と言えるものでした。やはり戦闘機乗りはかっこよいと思うことしきりなのです。戦争の現実に目をそむけたとの誹りを覚悟しても。

   なに?戦闘機乗り・・馬鹿じゃないの。