眼からうろこ

 「食料自給率の罠」という本を読みました。川島 博之という東大准教授が書いた本です。一口で言えば、世界の食糧危機はやって来そうもないので食料自給率にさほどこだわる必要はなく、農業の中心を穀物から野菜、畜産にシフトすれば良いのでは、といった本なのです。全面的に賛成とはいきませんがかなり説得力のある内容でした。私は自分の食い扶持は自分でというのが持論ですから、「どうせまた新自由主義の学者が・・」と思っていたのですが、これが全く的外れで目からうろこでした。
 食料問題は自然環境や天候、食習慣、歴史、風土など様々な関連要素を含んでいますから単純ではないのですが、この本は各国との対比、人口密度、実態、課題、政治など資料やデータを使い分かり易く解説しています。中でも日本の人口増加が水稲栽培と密接な関係があるとの指摘は新鮮な驚きでした。確かに水稲栽培をおこなっている地域は世界の中でも人口が多く、東南アジアは何故人口密度が高いのか、といった疑問が解けた気がします。米(こめ)は収穫までにやや手間がかかる作物ですが、食料としては優れたものと言われています。栄養価も高く(玄米)、調理すると量が増えます。また保存も容易ですから貯蔵できる食料です。とくに水稲栽培はこの本の指摘のように窒素固定菌が繁殖しやすく連作が効くというメリットもあるようです。高温多雨の地域に向いた作物と言えるのでしょう。それやこれやで人口増加の原動力となったようです。ヨーロッパの冷涼少雨であったことが小麦中心の農業となり、それらが人口増加の進まなかった要因のひとつとなったとすると、東南アジアとの対比が理解できます。
 “輸出が日本の農業を強くする”という著者の見解にはもろ手を挙げて賛成とはいきませんが、規模拡大や穀物中心の農業でなく、日本の狭い耕地条件に合った作物の生産が農業を強くすることは良く理解できます。このほかにも教えられることの多い本でした。

毛色の変わった本を読むのは まあいいことよ。