暗闇の速さ

 「暗闇に速さは有るのか。光に速さが有るのなら光の先に有る暗闇にも速さは有る。光の先を行くのだから暗闇は光より早い。」これは自閉症の主人公が考える推論です。
エリザベス・ムーンという作家が書いた「くらやみの速さはどのくらい」の中での話です。本の原題は「The speed of dark」、暗闇の速さです。自閉症についての説明は例によって“ウィキ”に任せますが、映画「レインマン」でダスティン・ホフマンの演技が印象的でした。脳の障害を扱った本では「アルジャーノンに花束を」が有名ですが、この「くらやみ・・・」もネビュラ賞と言うのを受賞した本です。ネビュラ賞がどんな賞なのか私は知りませんでした。調べてみるとアメリカのSF大賞のようです。自閉症の話がなんでSFなのか不思議ですが、読んでみると“まあそうかな”と思います。作者は自分の子供が自閉症で、本の題名はその子供の言葉から採ったようです。私は自閉症についてあまり知らないのですが、例えば計算能力や記憶能力、音感、色彩など特定の能力に異常な才能を示すケースが多いと聞きます。この本もその辺りを重要なファクターとして取り上げています。しかし本の紹介が本日の眼目ではなく、冒頭に挙げた「暗闇に速さは有るかの」に魅かれたのです。
 ダークマターとかダークエネルギーなどは今や天文物理の間では常識となりつつあります。とすれば暗闇に速さが有っても不思議ではないのではないか、と考えることも可能ではと思うのです。で、それがどういった意味を持つのかとか、何なんだそれはなどと言われてもお答えしようがないのですが、本の主人公“ルウ”が言うように、光より先に有るのだから当然光より速く進むことが出来るはずで、光より速いとなればアインシュタインの光速に関する理論は覆されてしまう訳です。この光速に関する議論は相対論分野ではかなりホットな話題で、ひょっとすると光速より速い物が有るかも知れないと言う学者もいます。
 前置きが長くなって肝心のことを書くスペースが無くなりましたが、ともかく光速より速い物(暗闇は状態であるというのが通説です。しかし物で無いと証明された訳でもないし・・)が有るかも知れないという具体的な提示であったような本でした。もちろん自閉症について大変考えさせられる、読みごたえのある本でもありました。

私は暗闇ではありません。