優生主義

 相模原で起きた重度障害者大量殺人事件は、悪名高いナチスの“優生主義”を思い起こさせるものとして、関係団体から様々な抗議の声が聞かれます。この種の事件が起きると決まって“生命の尊厳”あるいは“偏見と差別”などの文言が飛び交い、報道は“正論”と感情論をぶちまけて煽ります。うずたかく積まれた花束や祈る姿がTVや紙面を賑わせるのです。
 壊れたものを修理せずに捨てる、食べられるものを廃棄する、“ペット”と呼ばれる動物を殺処分する、無意味な動物実験の実施、動植物を遺伝交配(優生主義)させるなど、数え上げれば切りがないほどにヒトはヒト以外に対して、およそ尊厳とか偏見に顔向けできない行為を日常的に行っています。また障害児が生まれる可能性の高い疾病に妊婦が感染した場合には人工中絶も行われます。だから“優生主義=ヒトラー=悪”という単純な図式には一抹の違和感を覚えます。
 村上春樹が「地下鉄サリン事件」の被害者を取材した本「アンダーグラウンド」を最近になって読みました。正直に言えば“飛ばし読み”で、すでにあの事件のことなどすっかり忘れていましたから、かなり雑な読み方でもあったのです。で、そのあとすぐに相模原の事件が起きたのでした。今回の事件とサリン事件はある点で共通しているように思えました。それは“ある種の思想”によって引き起こされているという点です。これは直感的なものなので確かな根拠などないのですが、いわゆる“通り魔”的な犯行ではなく、かなり計画的に練られた殺人であった点なども共通していると思われます。「地下鉄サリン事件」は無差別に人を狙ったものでしたが、今回の相模原では重度の障害者に的を絞ったものでした。 しかしターゲットは違っても“行動”の原動力のようなものは一致しているのではないでしょうか。“思い込みと使命感”というキーワードが共通項としてあるのではと思っています。「アンダーグラウンド」の後書き部分で村上春樹は、オーム真理教が起こした一連の犯罪というのは「私たちがわざわざ意識して排除しなければならないものが、ひょっとしてそこに含まれていたのではないか」と書いています。相模原で起きた事件もこの点で私には引っかかるのです。
  つづく