アイヌのこと(続き)

私たちが歴史を学ぶとき、「アイヌ」についての記述は殆どありません。この島の先住民である彼らの歴史について私たちは殆ど知らず、この国に人種問題はないとさえ思っています。「静かな大地」は題名通りに静かな語り口で私にアイヌの心を教えてくれます。アイヌの神々は高みからヒトを見下ろすのではなく、ヒトと肩を並べ囲炉裏を囲むしそれほど強くない。神々はヒトだけでなくいろんな動物にも食べ物を与え気も使う。アイヌは文字を持たなかったが言葉で物語を伝え、言葉で描き、言葉で楽を奏でた。そういった人たちに和人は圧倒的な武力と奸計を弄して支配を強化していったのです。明治以降は近代化の名の下に同化政策が採用されて、多くのアイヌが和名と日本語の使用を強制されてゆくのです。と同時に土人として差別され土地を奪われて(もともと土地を所有するという概念がなく、この点も北米先住民と類似しています)過酷な生活を強いられるのです。
インディアンと呼ばれた北米先住民、イヌイット、オーストラリアのアボリジニ、また世界各地の植民地とされた土地に住んでいた先住民族なども、アイヌと同様な境遇を経験させられたはずで、“何処にでもある話”と言われればその通りですが、裏返せば征服者となるようなヒトは何処でも同じような非道を平気で行う証拠でもあり、そういった人たちの子孫が現在の世の中の主流となっていることに思い至ります。
はじめに書いたように私はアイヌについて殆ど知識が無く、今までも特別に興味を抱いたこともありませんでした。またこれからもその方面に首を突っ込むこともないでしょう。けれどこの島にはかつてアイヌと言われた人たちがいて、静かで豊かな生活を営んでいたことを、そしてそういった生活は世界中で営まれていた筈で、なぜか「文明」という歴史の潮流にそれらが押し流されてしまったことを、この「静かな大地」という本を読んで思ったのです。
おわり。

静かな寝姿