「米軍基地がやってきたこと」という本

 かつて東京にはいくつもの米軍基地があった。私が育った多摩地区にも横田、立川、昭和という空軍の基地があり、中でも横田基地は沖縄を除けば極東では最大の空軍基地だった。現在も“ヨコタエアーベース”は健在であり、その規模、機能はほぼ維持されている。「米軍基地がやってきたこと」という本を読んでみてある意味愕然とした。私は基地のそばで暮らした経験があるし、基地のことはよく知っていると思っていたが、表面的なことしか見ていなかったと思い知らされた。この本はデヴィッド・ヴィアンというアメリカン・ユニバーシティの人類学准教授によって書かれたもので、面白いことに監修を西村金一という元自衛隊の情報分析官で幹部学校の戦略教官だった人がしている。本の中身は米軍基地の果たしてきたエゴイスティックな役割というか、別な言い方をするなら、アメリカの世界戦略の中核として手前勝手な都合によって運営される“新植民地”としての基地の機能を暴露する、といった内容となっている。監修者の西村金一が後書きで書いているように、「この原稿を読み進めることに、実は強いストレスを感じた。なぜなら、米軍や米軍基地について著者と私が違った角度から見ていることやその陰の部分の記述が多く、しかも強調されていたからだ。・・・」という明らかに著者とは立場の異なるスタンスの監修者が、それでも「翻訳の正確を期すため・・・」に専門家の立場からチェックしたという、考えようによっては専門家によって太鼓判を押された読み物なのである。
  アメリカの海外軍事基地は2015年の統計で800にのぼり、ドイツの174、日本113、韓国83、イタリア50などを中心に文字通り世界的に展開されている。アメリカ以外の国の在外基地数は約30というから、もうアメリカだけが突出した状況と言える。まさにアメリカの世界戦略の要となっているのだ。17章からなるこの「米軍基地がやってきたこと」という本は、海外基地がアメリカにとっても負担となっている現実と、にも拘らずに基地を手放せないアメリカの軍事国家体質をも告発している。中でも14章で扱う「沖縄に海兵隊は必要か」は、“普天間辺野古”に直接絡んでくるものであり、沖縄の米軍基地そのものが抑止力としても戦略面からしても意味がなくなってきていると結論づけている。著者は「沖縄の基地にしがみつくことが日本という操り人形を手放さないための、そして同時にアメリカの政治的、経済的優位性を手放さないための手段」とまで言っている。これはもうアメリカ人による内部告発の書とも思える。この章の眼目である海兵隊については、「海兵隊の沖縄駐留そのものが、さまざまな意味で、軍事戦力や安全保障とはほとんど関係がない」、むしろ「訓練に絶好の場所だから・・」ということらしい。また、海兵隊の“存続”にとって必要な配置という、あくまで軍内部の都合が優先された結果によって、日本の税やアメリカの税が使われて自然が破壊され、沖縄県民が苦しむことになる。こんなバカなことが日本政府とアメリカ政府によっていま強行されている。    つづく

お久しぶり