公務員の給与引き下げ

 政府は今年度の人事院勧告の見送りを決めると同時に、公務員給与の7・8パーセント引き下げ法案の国会成立を目指しています。妙なことに自民党はこれに反対らしく、散々に人事院勧告を無視してきた経緯など忘れているかのようです。しかしそんなことはともかく、公務員の給与は争議権や交渉権といった労働基本権を制限する代替措置としての人事院勧告制度の中で決められてきました。また、人事院の給与勧告は民間給与と公務員給与との格差是正を目的としたものであり、その時々の労働賃金の平均的な額を示してきたとされています。
 以上のことを踏まえれば、今回政府が国会に提出している公務員の給与の引き下げ法案は、人事院制度の否定であり、したがって労働基本権を付与せずに行えば憲法違反とも言える行為と考えられます。また、公務員の給与は民間準拠を原則としている建前から、今回の法案は必然的に民間給与の引き下げに口実を与え、賃金抑制に積極的な経団連をはじめとする総資本の思惑を後押しするものと言わざるを得ません。景気回復に最も重要な内需拡大に背を向けるかのごとくの法案はこの際慎むべきでしょう。もともと現在のような莫大な財政赤字の原因は、長年にわたり行なってきた利益誘導型の公共投資と長期的見通しを持たない政権運営にあったと考えられ、そのことの反省や分析を抜きにして、直接的には責任のない一般職の労働者に犠牲を強いるのはお門違いなやり方と思えます。
 この国の公務員労働者の労働の質や規律は、世界の中でも非常に高い水準にあると言われています。汚職件数などは他の国々と比較すれば格段に少なく、また人口あたりの公務員数も決して多くありません。もちろん改革すべき制度や労働の質の向上はさらに追求すべき課題でしょう。しかし、財政再建を掲げるアドバルーンとしての景気ずけのために、短絡的な給与削減は行うとするのは納得できない政策であり、長い目で見れば公務労働の質低下を招く暴挙とも思えます。まず人事院制度、労働基本権問題を踏まえた議論を始めるべきでしょう。“隗より始めよ”とは法案を提出する政府と審議する立法府が範を示すことからであると思います。

襟を正し 範を示す・・・。