高島 野十郎(タカシマ ヤジュウロウ)

年表によれば、明治23年(1890)に福岡県久留米市に生まれたとあります。東京帝大の農学部水産学科を卒業して、例によって周囲の反対を押し切り画家になったという変わり者です。画壇や展覧会などには殆ど関わらずに、独自の世界の中で絵を描くことに集中させた生き方を貫いた、まさに“画家”であったのです。本名は高嶋 彌壽(タカシマ ヤジュ)と言い、1975年に85歳で亡くなっています。生涯妻帯せずに独身、この点でも絵に集中した人生であったようです。
この画家を知ったのは偶然図書館で見た画集からなのですが、細密画と言っても良いような写実を追求した画風は、今までにあまり見たことのない、けれども日本人の画家らしいやや暗いトーンの不思議な色調を持った絵なのです。「蝋燭の画家」とも言われているようで、ただ蝋燭の燃えているさまを描いた絵が数多く残され、画集にも20点ちかく収録されていました。生前はほとんど知られることのなかった画家で、個展などもあまり開催されていなかったようです。私も作品をじかに見たことがありませんし、だいたい画家の名前すら最近知ったばかりなのであれこれ言うことはできませんが、“こりゃあただ者でないなあ”とまあ素人なりに驚きをもって画集を見たのでした。
夜空に浮かぶ月、それのみ、机の上で燃える蝋燭、同じくそれのみという、モチーフとしてはかなり絞ったもののみに集中して描いた作品に、なにか宗教画のようなストイックなものを感じたのはきっと私だけではないでしょう。特に「蝋燭」は構図も色調もほとんど同じものを幾枚も描いています。炎の揺らぎが少し違うだけで、暗い赤を基調とした中に白い蝋燭がただ燃えている、作品は20×15センチ程度の小さいものですが、暗示的で存在感のあるものとなっています。「蝋燭」はそのほとんどが個人蔵となっていて、この画家のそのほかの作品も同様に個人蔵が多く、公開されにくい環境にあるようです。画家の出身地である福岡県立美術館にはいくつかの作品が収蔵されているらしいのですが、近場でまとまった作品群を見てみたいと思います。

お昼寝