「6羽のかもめ」

もう随分と昔のTVドラマのことです。TVがまだ元気で、民放もNHKも張り切って番組を作っていた頃のことです。当時売り出し中というかすでに売れっ子シナリオライターであった倉本 聰の作品で、「6羽のかもめ」というドラマが放送されていました。出演していた俳優さん達の名前もほとんど忘れてしまいましたが、たしか高橋 英樹さんともう亡くなられて久しい中条 静雄さんなどが出演されていたと記憶しています。中でも中条(ちゅうじょう)さんの役どころはTV局の中間管理職の役で、せりふ回しとそのボケぶりは何とも面白く、今でも記憶に残るシーンがいくつもあります。話の筋はTV局スタッフ達と小劇団員達の裏話的な日常会話を中心としたコメディータッチのドラマといったものなのですが、脂の乗っている時期の倉本脚本(例えば“前略 おふくろ様”など)は、今の説教臭い倉本 聰とは似ても似つかぬほど面白く、ウィットに富んだ上質の笑いを描いていたのです。
こんな古い話題を持ち出して、いかにも年寄りの“昔は・・・”的な言い草になりそうですが、なぜかあの頃のTVドラマがとても気にかかるのです。図書館から「6羽のかもめ」を借りて読み返しました。1話完結の12話からなるドラマであったようです。記憶にあった中条さんが演じた部長が、ゴルフコンペでの賞品“電気乾燥機”にこだわる話は第4話「乾燥機」という題名でした。当時は乾燥機がまだ珍しく、洗濯機の上の棚のようなところに載せてある方式でした。現在の一体型のものとは隔世の感がある代物で、たしかそれほど普及しなかったように覚えています。この作品は時代背景にある「物」に対する憧れというか欲求が書かせたドラマとも言える内容ですが、でもそれが切なく温かみのあるものとなっていて、今のように「物」に溢れている状況の中では作られなかったと思えるのです。
どんな人も時代の制約の中でしか考えられない、生きられないということはあるにしても、時代を超えて、単なるノスタルジックではない作品が、かつてTVの世界にあったということを、まあグダグダと思ったりした訳でした。

随分と古い話です