漱石の「こころ」

朝日新聞の朝刊に夏目漱石の「こころ」が再連載されている。もともと「こころ」は1914年(大正3年)に同新聞に連載された新聞小説であり、ちょうど100年を経過した今再掲載するということらしい。「こころ」を読んだのはもうずいぶんと前のことで、例によって中身はほとんど忘れてしまっている。新聞に掲載された第1回分を読んで全く覚えていなかった。“先生”からの手紙がやたら長いということを思い出した程度で、後はさっぱり、何が書いてあったかさえも思い出せない。幸い漱石全集は家にあるので良い機会でもあり読み直すこととした。
読み進んでいくうちに幾らかは思い出すかと期待していたが、「中」という第二章を読み終わってもさっぱり記憶が戻らない。たしかこの本を最初読んだのは高校生の頃だったように覚えているが、きっと斜め読みでもしたのだろうと思う。まあ何時ものことだから取り立てて驚くほどでもないのだが、読み直して気が付いたことがある。言葉使いや町の風景、生活の仕方が今とまるで違うことは勿論なのだが、主人公が大学を卒業するにあたり、就職先の当てなど無いこと、それにそのことが特別珍しいことではないという事情が書かれていたことであった。今のように3年からの就職活動では遅く、2年あるいは入学と同時に就職活動に入るなどと言う馬鹿な時代ではなかったのだ。それと“先生”が住んでいる家は借地の上に自分が建てたもので、“先生”の家は奥さんのほかに女中さんもいるぐらいの生活レベルであるから、経済的には比較的裕福な家であってもそれが普通の暮らしぶりであったということだ。今のように20坪、30坪の土地に目いっぱいしがみ付く人が多い世の中とは、隔世の感どころではない差を感じる。しかし本筋とは関係ないのだからどうでも良いことかも知れない。
第三章とも言うべき「下」の“先生と遺書”は明日から信州のほうで読むつもりだ。桜が開花したばかりの地域だから、花見がてらちょうど良い読み物となるだろう。

と言う訳で、明日から来月の6日まではお休みです。

では連休明けまで