眠り

眠ることについてはいつもの写真の方に敵わないのです。なんといっても“寝る子”が転じて種の名になったほどのその道に達人ですから一歩譲るとして、私も眠ることについては人後に落ちないと自負していました。“バタンキュウ”という眠り方も得意ですし、若い時は何処ででも眠れました。ドラム缶の上やコンクリートの上で寝たこともあります。
ところが今年になって久しぶりに山小屋に泊り、板の間に敷いた布団の上で寝たのですが、体が痛くて寝返りばかり打ち熟睡できませんでした。考えてみれば、このところ地面どころか床の上にさえ直に眠ることなどなく、“ベッド”という快適な寝具のご厄介になっていたのですから仕方ないかも知れません。
ギリシャ神話に出てくるヘルメースという神は、眠りや夢をつかさどると言いますが、このところ私の眠りは“寝る子”には邪魔され、ヘルメースにも見放されたらしく、浅い眠りに彷徨っています。とくに寝る子は他人のことは邪魔するくせに、自分は勝手にいつも寝ています。しかしその寝姿を見ると、つい邪魔されたことを忘れてしまうほどの気持ちよさで、さすが眠りの名人と感心してしまうのです。せめてヘルメースにはお助け願いたいと思うのですが、フランスの高級ブランドで目が覚めるような値段をつけるのに忙しいらしく、本来の仕事を放棄なさっていられるようです。ただ、ギリシャ神話の本によればヘルメースは商売や盗み?の神でもあるということで、フランスでのお仕事もまんざら畑違いではなさそうです。「エルメス」についている値札などは正気の沙汰ではなく、盗人のような商売とも言えますから、そちらが本業とも言えるのかも知れません。
若い時分(歳を取ると昔のことばかり思いつくもので)には“貪る”といった眠りもあったのですが、近頃では食べること同様に“ほどほど”となりました。たまには死んだように眠ってみたいなどと思いますが、まあそう遠くない時期には望むと望まないとに拘わらずそうなる訳ですから、今は寝る子に邪魔される眠りを楽しむこととします。

これだもんね