アンドリュウ・ワイエスの写実

写実的で繊細な絵を描くアメリカの画家です。図書館から「カーナー牧場」という画集を借りて(この画集は現在再版されてなく、おまけに買うと高価)来ました。やや古い本ですが印刷もよく、画集で見てもその対象に対するデッサン力や集中度の高さには驚かされます。画家はものを見て描くという作業にどれだけ没頭できるかで価値が決まる、と私は常々思っています。アンドリュウワイエスという画家はただひたすらに描くことに没頭できた人なのでしょう。何でもない風景や農具、作業小屋、浴室・・・何でも描いています。これは描くことが好きで好きでしょうがない人のみに許される才能で、ああだこうだと能書きを言う人にはできない芸当とも言えます。その上であの描写力ですから絵描きとしては鬼に金棒な訳です。1960年代のアメリカでは、ポップや前衛芸術の盛んとなった時期で、ワイエスの写実的な画風は時代遅れとか言われたそうです。しかし一貫して変わらない画風を保ち続け、今ではアメリカを代表する画家として多くの支持者を集めています。
「カーナー牧場」は鉛筆によるスケッチと水彩画が中心の画集です。中でも水彩によるディテールの表現力は目を見張るもので、対象の質感や重量感まで表現するその描写力はただただ驚くばかりです。印刷されたものでも十分にその力量が量られますが、実物の迫力はさらに衝撃的であろうと思われます。写実絵画はデッサン力や表現力をとことん要求されるもので、画家の基礎的力量がもろに出ます。当然対象を見抜く力や色彩の感覚、用具の性質にまでも気を遣わなくてはなりません。その上で単調にならず画家の意思を表現するという厄介な絵なのです。強烈なインパクトはありませんが、やはり絵画の本流とも言うべきものであろうと思います。近年この写実絵画、中でも超写実絵画が注目を浴びていますが、画家に苦難を強要する流れと同情したい気持ちです。一面、総保守化の傾向とも無関係ではないのかと一抹の不安も感じるのですが・・・。ただ、アンドリュウワイエスについて言えば決して保守的ということはなく、むしろソーローや自然回帰の思想家に通じる、ある意味では先進的な意識の持ち主であったようです。
 
 私はリアリスト