根付かないこの国のナショナルトラスト運動 2

この国の自然はイギリスやヨーロッパのそれと比べ、格段の強さと多様性を持っています。夏の高温多湿、冬の降雪と乾燥は、植物や動物にとって良好な生育環境を提供します。昨年の津波で流された東北の居住区域では、1年足らずで緑に覆われた原野が出現しました。寒冷乾燥のヨーロッパでは考えられない自然の回復力です。そのあまりの自然の豊饒さに、私達はいつしか無感覚となってしまったようなのです。空気があることを意識しないと同じように、この国の自然は保全とか保護とは無縁の存在であるかの如くに思ってしまったのでしょう。ナショナルトラストは自然環境ばかりでなく、その自然の中で暮らす生活様式保全の対象とします。住居や場合によっては街全体が保全の対象となり、住民が居住しながら維持管理されることもあります。住まいや生活が自然との密接な関係の中で築かれてきたのですから、そういった保全当然の帰結と言えます。残念ながら私達の国は明治以後の急速な西欧化の波にもまれ、それ以前の暮らしぶりを大きく変えてきました。“里山”に代表される自然との濃密な関係は、今ではほとんど失われています。明治初期に来日した外国人達が絶賛した農村風景や整然とした都市の街並みは、新建材のバラック住宅やコンクリート建築が乱立密集した風景へと変貌しました。狭い道路に車がひしめき、蜘蛛の巣状となった電線や電柱がそれらを更に醜い状態にしています。そのような環境の中で暮らすことを余儀なくされた私達には、残すべき自然、残すべき風景といったものが心象として育たなかったのかもしれません。あり余るほどの自然とそれらをまったく顧みなかった生活様式の変化は、必然的に自然保護やナショナルトラストという運動に無関心な市民を量産し続けてきたとも言えます。        まだ終わらない・・・。

狭山丘陵東端、狭山公園内のスミレ