インスピレーション

 “○○に啓示を受けて・・・”とか言うのが有りますが、私はどちらかというとどうも霊感やスピリチャルなものに疎く、したがって神がかりや心霊何とかといった現象に出会ったことがありません。インスピレーションはそういったものとは少し違うような気もしますが、あることから閃く、あるいは感化を受け新たな発想を思いつくことはたまに有ります。まあ大方においてロクでもない妄想に近いものですが、インスピレーションにまったく無縁という訳ではないのです。
 先日ちょこっと触れた中田喜直さんの作曲の話などは、このインスピレーションが大いに発揮された例でしょう。詩のイメージから触発されたものが曲となって結実したという、大変高度な格 調高い作業工程であったと思います。私のインスピレーションなどはそう言った高尚な世界とは縁遠く、せいぜい涎を垂らしながらみた昼寝の夢から、あることを思いつく程度のものなのです。
 そんな思いつきの中で、老後の暮らし方を考えたことがあります。トーマス・マンの「魔の山」を読んだ時に、サナトリウムといったものに興味を覚えました。サナトリウムは療養施設ですがコロニーのようなもので、気の合った仲間と景色の良い静かな場所でのんびりと暮すのは、老後にうってつけのライフスタイルではないかと思ったのです。その本を読んだ時はまだ20歳代でしたから、老後なんて関係ないと思いながら妙に気にかかりました。その後山へ行った折など広く気持ちの良い開けたところがあると、ここに老人向けコロニーを造ったらなどと頭の中で図面など引いてみたりしました。また自分用のそんな場所をみつけたりもしてきました。
 しかし実際自分が老人になってみると、景色の良い静かな場所は“酒屋に三里豆腐屋に二里”で、足腰の弱くなった老人にはあまり向いてないようなのです。今のところまだ体は不具合がないので少々不便なところでも大丈夫ですが、いずれあちこちガタが来た時には風流なことにこだわるのは無理な気もします。やはりヒトとなったものがサルには戻れないようで、サルのままが良かったとも思いませんが、少し残念でもあります。

私はいつも食事掃除ベッド付きの生活だから何の不満もないの。