美しき停滞

 「美しき停滞」と言う言葉は、亡くなった司馬遼太郎さんが生前に、これも昨年亡くなった井上ひさしさんと対談されたときに言われた言葉です。高度経済成長とともに起きたバブル後の日本と国民に対して、もうそろそろ成熟期にさしかかって良いころでは、との思いを述べたもので、「日本のいわゆる発展はもう終わりで、あとはよき停滞、美しき停滞を出来るかどうか、これを民族の総力をかけてやらなければいけない」と結んでいます。「民族の総力」とは司馬さんらしい表現ですが、残念ながら司馬さんの思いは今のところ空回りしています。
 今話題のTPPとやらも、いかに成長戦略が保てるかといった観点からの論議が中心のようですし、企業の論理は相も変わらず国際競争力の向上と利益追求です。その結果が国内労働者の低賃金化では、“何をか況や”といったぼやきが出てしまいます。GDPが中国に抜かれたと新聞やテレビは騒いでいますが、あれだけ人口の多い国が経済活動を進めれば、GDPが大きくなるのは当たり前で、インドにだっていずれ抜かれるのは必定でしょう。問題は国民一人一人が幸福感を持てるかどうかです。因みに中国の国民一人当たりのGDPは世界で100位辺りと聞きます。そして貧富の格差は壮絶なほどの様相を呈しているようです。何もガツガツすることはない、もう少し余裕と理性を発揮して成熟した国としての威厳をもつことに力を注ぐべきではと思います。いまの経済力と技術力を維持できれば、50年やそこらは充分に食っていけるだけのものは蓄えている、この国はその位の実力が有ると思うのは私だけでしょうか。

美しき停滞とは 私のことよ。