欠けている 満たされない

 面白い本を読みました。京極 夏彦の「数えずの井戸」です。番長皿屋敷のはなしが下敷きで、人の持っている様々な欲望や欠落感を自己分析した登場人物に語らせます。物語の筋は省きますが、人の心の中にある掴みどころのない感情を、具体化してくれる作家の力が感じられる本でした。いやあ、本は面白いものです、それでは、さよなら、さよなら、さよなら。と終わる訳にもいかないのでもうしばらく続けます。
 この本の中に強欲な、欲しい物がいっぱい有る人物が出てきます。“これは私だな”と思いました。次から次へと欲しい物が出てくるのです私は。もちろんその全てが手に入る訳ではないので、欲求不満になったり、諦めたりもするのですが、自分でも呆れるくらいに欲しい物が出てくるのです。“欲しい”という感情は“足りない”といった感情と表裏一体なので、満ち足りている思いを獲得しなければ“欲しい”を解消できません。ヒトの欲は際限のないものとは言いますから、大なり小なりの穴があいたバケツをみんな持っているはずで、そこにいくら水を入れても満ちることはありません。私の場合はその穴が少し大きいのでしょう。
 こういった人の弱みに付け込むのがカードやローンといったシステムです。現金と引き換えに物を手にするシステムでは、際限なくものを欲しがることが不可能でした。しかしカードやローンはそれらあっさり可能にするかのような幻想を与えてくれるのです。当然ツケはあとからやってくるのですが、これがなかなか巧妙で銀行とタッグを組んだカードやローン会社に、いつの間にやら身ぐるみはがされてしまうのです。私はローンには手を出さないようにしていますが、カードの気楽さにはついつい乗せられてしまいます。ある意味簡単に欲望が達成されるので、満足感が薄くなり満たされない気持ちはますます強くなるようです。このまま行くと無間地獄が待っているかも知れず、ドツボに嵌らないよう注意をしています。それにしても、京極さんの本はいつも何かしら哀しいのです。


欲張ると ろくなことないのよ。