貧困と格差

「一億総中流」の時代に育った子供たちが大人になって気がつけば、なにやら聞きなれない貧困とか格差といった言葉を頻繁に耳にするようになっています。今や「総中流」の先進国であったアメリカでも、大統領選挙の主要な政策課題が“格差の是正と貧困の撲滅”という時代であり、なにやら“進歩と調和、経済成長で豊かな暮らし”といったお題目は20世紀の終わりともに世界中から消えてなくなったようです。
事実アメリカでは人口の10パーセントの人たちの所有する富の割合が70パーセントになると言われ(ヨーロッパや日本では約35パーセント)、近年その傾向が強まっているのです。アメリカ民主党の大統領候補選に立候補していたサンダース候補が、格差是正を掲げて善善戦したのは記憶に新しいことです。日本でもこの貧困と格差は徐々に深刻な問題となりつつあります。これらの原因はいくつかあるようですが、真っ先に挙げられるのは政府の富裕層優遇策にあると言われます。所得税累進課税率の引き下げや相続税法人税の税率の引き下げなどがその主なものですが、単純な右肩上がりの経済成長が望めなくなった先進国で、様々な規制緩和と並行して進められてきたこれらの政策が格差を助長し、貧困の台頭を許してきたとも言えるのです。
先進国と開発途上の国では格差も貧困もその質が異なります。もともとこれらの概念は相対的なものですから、スマホを持っていようが流行の衣服を身に着けていようが貧困は存在します。このところを勘違いすると貧困と格差が見えなくなり曖昧となります。大学を卒業しても年収200万円以下の生活に甘んずる、あるいは不安定な契約社員やアルバイトによって生活している若者は少なくありません。高度経済成長というバラ色の幻想が消えてしまった今では、5年先10年先の生活設計すら描けない、まして老後の生活などは考えることもできないという状況はごく普通に存在します。
こんなことを考えているときに目にしたのが「21世紀の資本」でした。トマ・ピケティが書き著したかなりの大作です。ざっと目を通しただけで何も理解しているわけではないのですが、私が持っているいくつかの疑問に答えてくれそうな予感はします。実のところ、「ガモフ」は中断しているし、読みかけの本は溜まるしなのですが、貧困と格差はこのところ気になっていたテーマだったのできちっと読み始めました。秋の夜長(私は早寝なので関係ないのですが)に向いた本であると思います。

秋の夜長は寝るに限る、浮世のバカは起きて本を読む