取り返しのつかないこと

「3.11」によって露見した日本の原発脆弱性は、幻想であったともいえる「安全神話」の崩壊と相まって、原子力という分野が人類にはいまだ制御が不可能なものという事実を、改めて具体的に示したと出来事であったと思っています。この国は「ヒロシマナガサキ」、「ビキニ」、「フクシマ」と三度にわたり原子力のエネルギーを、身をもって経験した世界でも稀な国となりました。今「フクシマ」は世界中の放射線研究者の間で最も注目すべき対象であり、平たく言えば“実験場”としての放射能汚染地域が、この先数十年にわたって調査、研究されることになると思われるのです。
津地裁関西電力高浜原発の再稼働中止を仮処分決定したことは、福島原発事故の教訓を踏まえたものであり、事故究明の不十分さをも指摘したものと考えられます。にもかかわらず政府の原発に対する姿勢は、「原子力規制委員会の基準は世界最高レベルのものであり、これを満たしていれば再稼働に問題はない」という、原発事故も裁判所の判断も全く意に介さないものでした。三度にわたる惨事が教訓として全く生かされていないばかりか、「フクシマ」以前の安全神話の復活さえ持ち出しかねない勢いなのです。
原発事故は一度起きてしまうと原状回復に大変な時間と労力がかかります。50年100年という単位の中での作業と莫大は費用の負担を強いられる、言ってみれば「取り返しのつかないこと」となってしまうのです。報道によれば、無人地帯となった汚染地区では家畜が野生化しイノシシなどの野生動物が急速な勢いで繁殖して、周辺の非汚染地区にまでその影響が心配されていると言われます。当然のこととして汚染地区の動物は放射能汚染の体を持ち、例えばネズミなどが周辺地区に拡大して来ればそのネズミを媒介として新たな放射能汚染が起こりかねないのです。私たちの予想をはるかに超えた状況が既に進行しているといって差し支えないでしょう。
一日も早く全原発廃炉を決めて、そのための具体的準備と工程表を作成することが私たちに課せられた仕事と思います。


こんな感じの季節となりました。