本の紹介

岩波書店編集部編で“「これからどうする」未来のつくり方”という本が出ています。228名の学者、文化人、知名人などが10のテーマについて発言している本です。一人当たり二千字ほどの意見表明です。執筆されている一人の久米 宏が書いているように、岩波書店創業100年周記念事業の一環なのでしょうが、さすがは岩波と思わせる内容と時節に合った企画で感心させられました。
今年の6月に発刊された本ですから、すでに4か月を経過しています。どの程度の発行部数なのか、売れ行きはどうなのか気になりますが、図書館には新刊が入っていましたからそこそこは出ているのでしょう。こういった本はまずベストセラーにはならないですから、書店でも平積みにはならず棚に移される運命というか、あまり人の話題には上らずに増刷もされず、何てことになりかねない本だと思います。だからこそ此処で取り上げました。
時節に合った・・と言いましたが、今のこの政治経済の流れの中で、岩波書店という一出版社が、おそらく自分たちの思いを代弁してくれるだろう、あるいは聞くべき考えを開陳してくれそうな人たちを中心に、本というメディアを使って意思を明らかにする、出版社だからこそ可能な企画と思ったのでした。この本の冒頭のテーマ“私たちは、これから”ではまず「憲法9条を実行する」という柄谷 行人(哲学者)の一文が掲載されています。これによりこの本の傾向が概ね分かりますが、このテーマの後半には自民党憲法草案の危険性や現行憲法の持つ優位性を論じる意見が何本も続くという、言わば“偏向的”な編集方針も見受けられます。しかしこれこそ今の時代に必要な偏向性であり、声だかに訴えてゆく必要性のあるテーマと思うのです。
関心のあるテーマ、聞いてみたい人の意見など、拾い読み飛ばし読みでも十分にためになるし、楽しめるというには異論も出そうですが、それなりに元は取れるものであると思えるのです。

考える・・・