首提灯

落語で「首提灯」という噺があります。吉原に遊びに行く町人が、道の途中で田舎侍といさかいを起こし、すったもんだの挙句に首をはねられるという筋です。しかし侍の腕が極め付けだったもので、町人は首を切られてもしばらくはそのことに気が付かない。ところが歩いているうちに切られた首がずれてきて落っこちてしまう。さあ驚いた町人は首を拾って途方に暮れるが、目も口もまだ生きているので、気を取り直して提灯よろしく首を手で掲げて、“ハイごめんよ”とそのまま吉原に向かうという噺です。かなりシュールな内容で、夏場の噺としてこの時期によく高座にかかったようです。
ところが、この噺、まんざら与太話でもないようなのです。ある本にギロチンで処刑された場合に、死ぬまでかかる時間が書いてありました。それによれば、ギロチンで首が落ちるまでの時間が0.05秒、その後脳内に残った血中酸素が消費されるまで意識、視覚、聴覚は残存する。その間約3秒というのです。このことが事実であるとすると、ギロチンで首を切られた人は、首のない自分の体を見ているかも知れず、また公開で処刑されることが普通であった当時の事情を考えると、周りの見物人の驚く顔を見ながら笑うことだって出来たかも知れません。あまり見たいとは思いませんが、ゲテモノ好きの民放TV局なら飛びつきそうな趣向です
落語が廃れてきた今では、TVでもラジオでも噺がかかることは少なくなって、それにまともな落語が出来る噺家も数えるばかりになってきましたから、久しく「首提灯」も聞いていません。

ギロチンでやられたのではなく、寝ているだけです。