名前

僕は他人の名前を覚えるのが苦手で、一度聞いたぐらいではすぐに忘れてしまう。一番困るのは、相手が僕の名前を憶えていてこちらは忘れているときの会話だ。話の途中で思い出そうとするから、相手の話など殆ど耳に入らない時もある。それでも思い出せばよいが、多くの場合記憶は戻らない。出来るだけ名前を避けて話をすることになるが、あまり褒められたことではない。以前に新聞記者をしていた人が、「僕は一度聞いた名前は決して忘れない、商売柄身についた癖ですね」と言っていたが、本当に羨ましかった。
花や鳥、山の名前は意外と忘れない。覚えようとする意識が強く働くからだろう。興味があるからと言い換えてもよい。では人には興味がないのかと言えばそうでもない。綺麗で若いねーちゃんなどにはえらく興味も関心もある。結局のところ覚える必要がないから覚えられないということに尽きるのだろう。話は簡単なのであった。
僕には大層な名前がついていて、或るところで名前を書いたら皇族と間違われた。あのような系統の顔と一緒にされたのでは嬉しくもなんともない。しかし虚仮脅しぐらいにはなるので、御大層な名前も悪くないかも知れない。落語の「寿限無」は縁起の良い名前、目出度い名前やら何やらを思いつくままに並べて付ける親の話だが、いくら御大層でもあまり長いと噺のように落ちがついてしまう。ヒトの名前で言えば、当世流行りの横文字に漢字をあてたような、あるいは全く読めないような名前は親の自己満足ではあるだろうが、「寿限無」同様に付けられた本人は迷惑かも知れない。しかし、日本書紀古事記に出てくる神話伝説の類には、漢字をやたらに並べた名前が多いから、流行りの名前も先祖返りとも言えるもののようにも思える。やはり退行現象の一例かなどと考えている。

僕、だなんて、中身のない文章ね