見果てぬ夢

 ついこの前、歳をとったら不便な場所での生活は難しいみたいなことを書きましたが、いまだ憧れは有るのです。ある建築家の本を読んでいたら、小屋に対する夢を語っていました。私も実は小屋好きなのです。あのコルビュジェも晩年は小さな小屋で暮らしていましたし、古くはソーロー、日本でも鴨長明さんなんかが小屋に暮らしました。まあ小屋に暮らしたいと思うのは主に男が多いようですが、子供のころから秘密基地は大体小屋でした。ヒトが最初に暮らし始めた「家」の原型は洞窟であったり竪穴式であったりしますが、小さい小屋サイズの広さに太古の記憶が呼び起こされるのでしょうか、余分なものを排したシンプル志向に限りない憧れを抱きます。現実の日常は余分なガラクタに囲まれているのでその反動とも言えます。でもだからこそ、湖や山や海と言ったロケーションの中に、小じんまりした小屋を建て静かに暮らすことは、一度は憧れる見果てぬ夢なのです。
 この頃はさすがにやらなくなったのですが、テントを担いで山に登ることが多く有りました。テントの中での生活は小屋に似たものがあります。薄い布切れ一枚で囲まれた空間は、不思議なほどの安心感を与えてくれます。けれどあれはあくまで仮の宿といったもので、非日常の解放感と簡易性がなんと言ってもとり得なのですが、小屋はそれらに居住性がプラスされたものです。雨風に耐えるだけの堅牢さと必要最小限の空間、ベッドと机と暖炉があって・・・・などと空想するだけで心が浮き浮きしだします。しかし実際にそういった生活をしてみると、おそらく一月もしないうちいつ止めようかと考えだしそうな気もして、だからなかなか実現はしません。


見果てぬ夢の中