団地マニア

 工場萌え、鉄塔マニア、高架下住居マニアなどなど、とても鑑賞に堪えうる構造物とは思えなかったものが、このところのマニアックブームの中で話題となっています。団地マニアというのも居て、なんてことはない公団住宅が鑑賞の対象となります。確かに今になってみると、現存している公団住宅は緑が豊かで空間も広々しているし、大きな公団団地ともなれば商店街から医院、果ては郵便局、学校まで備え独立した街としての機能を持っているものまであります。私の身近なところにもこのマニアが居て、休日などにカメラを持ってぱちぱちやっているようです。
 日本住宅公団がまだ元気だったころに建てられた、有名な杉並の阿佐が谷住宅をはじめとする先進的な住宅群は、現在の建売住宅群と比較すると話にならぬほど住環境としての優位性を保っています。一戸当たりの面積などは時代の制約の中で狭いのですが、その住宅と周辺環境を一体化した街づくりのコンセプトは、現在でも十分に通用する水準を持っていると思われ、むしろ今ではその水準は、はるか高みの物になってしまった感さえあるほどなのです。しかし、公団住宅が鑑賞の対象として評価されるということは、とりもなおさず、それ以外の住環境が劣悪なことの証明とも言え、この国の住環境の貧しさが生み出した恥ずべき現象とも言えるのです。
 ヒトが暮らしていくうえで最も大事な基盤とも言うべき住環境が、戦後の焼け跡住宅に代る住居政策として設立された日本住宅公団の、その当時の水準さえ達しえないとするなら、これはもう、これからこの国に住宅政策という概念は無きものと考えざるを得ない絶望を、団地マニアは教えているとも思うのです。

私のこの家はワンルームだけど 別荘だからね。