「い」の考察

 いろはの「い」です。“あいうえお”の「い」ではなく“いろは”の「い」です。ですから第一位、最初の音になります。この“いろは”は“いろは歌”という大変洒落た趣向がおまけについていて、この辺りが新参者の50音と異なります。
     色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ 
     有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず
意味が有るようで無いようで不思議な歌ですが、誰が作ったのか未だ定説は有りません。よほど言葉と音に鋭い人がいて、面白半分に創ったのでしょう。この辺りのセンスは、とても私達現代人には真似のできない芸当のように思われます。その証拠に50音歌は出来てないようです。
 「あ」のところで言ったように、「い」は一音で使われることは無いようです。「いーだ」などと子供が使うことは有りますが、あまり一般的とは言えないようです。つまり、「あ」やほかの母音と異なり感嘆、驚き、嘆き、呻きなど感情の表現には向かない母音なのでしょう。それが何故なのかは分かりません。しかし「意思」「意味」「意見」の「意」、「言う」の「い」のように理性的な言葉の頭に使われることが多いように思います。「い」は母音のなかで異色、異端とも言えるかもしれません。一人孤高を行く、“空の青 海の青にも 染まず漂う”といった役どころと言えるのでしょう。やはり一番目に位置する音である誇りでも有るのでしょう。50音では「あ」に第一位を譲ったとはいえ、古来より常に先頭に立ってきたものの自負或いは気概、そんなものを「い」には感じてしまいます。

目を覆いたくなるようなヨタ話ね