テイク・ファイブ

「俺、ちょっと便所に行ってくる」
Kはごそごそ起きだして言った。
「馬鹿、いま頃出て言って先生に見つかったらどうすんだよ」
クマと呼ばれるリーダー格のYが言う。Sはもう寝息を立てている。
「もう平気だよこの時間だから」
Kはドアを開けて出て行った。時計は午後9時を少し回っている。しばらくするとKが帰ってきた。その後ろには見覚えのある教師が立っていた。
「まったく・・・」、Yは舌打ちしながら言った。
僕ら4人は明日から始まる文化祭の準備と称し学校に無断で泊る予定だった。

 その日は朝から授業は無く、翌日から始まる文化祭の準備に学校中が追われていた。美術部に所属していた僕ら4人は、部の展示とは別に模擬店を計画していたのだった。「店」となる美術教室の準備室は勝手知ったる所なので早々に飾り付けを終え、明日からBGMで流す音楽の選択を兼ねてレコードを流していた。ジャンルはモダンジャズとまでは決まっていたが、曲がなかなか選べなかった。あれこれの末に、Yが自宅から持ってきたD・ブルーベックのアルバム、“Time out”をメインにしてあとはその時の気分でと言うことに決まった。僕はその時まで“Take Five”と言う曲を知らなかった。高校2年生だった僕らは少し羽を伸ばすつもりで、その日は「店」に泊まり酒でも飲もうと相談していた。
「だから、6時には外へ出て夕飯を食って8時前に窓から入れば大丈夫だよ。どうせ窓の鍵なんてチェックしないから」
準備室は一階に有り簡単に窓から出入りできる。Yが言うには校門は9時ごろまで開いているからその前に校内入ってしまえば見つからない。10時ぐらいまでひと寝入りしてその後宴会という計画なのだ。そして計画通り8時には窓から忍び込み、じっと息をひそめていた矢先の出来事だった。
結局僕らは追い出され、仕方なしに喫茶店に入りしばらく皆でKをなじり、それぞれ家に帰った。

 翌朝はなぜか早く目が覚めたのだが、「店」の開店時間が10時ということもあったので9時ごろ学校に着いた。Yはすでに「店」に来ていた。
「遅いなあ、テーブルのカバー掛けるの昨日やらなかったろう、SもKもまだ来てねえし・・」
Yは少し怒ったような、夕べのアクシデントの余韻がまだ残っているかのような口ぶりだった。それから間もなく2人がやってきて、KはそこでもYに嫌味を言われた。
「店」はモダンジャズ喫茶風でコーヒーを出す。一応ドリップで淹れたものを出すのでやや準備がいるのだ。Yはどこで覚えたのかドリップのコーヒーが淹れられた。僕はレコード係で、アンプやスピーカーのセッティングは昨日のうちに済ませておいた。周りの準備がほぼ終わったのでBGMを流すことにして、“Time out”をプレーヤーに置いた。抽象絵画のジャケットは“いかにも”と言った雰囲気をやる気満々に見せていた。ターンテーブルが回り出しトーンアームを静かに下ろすと軽快なピアノソロがスピーカーから流れだした・・・・・・。

 こんな感じの物語を書いてみたいと思ったのですが、この手の奴はみんな“スタンド バイミー”がやってしまって・・・、今さら二番煎じも無いですから止めました。

昔の事を書くなんて 歳ね。