己をつづまやかにし

 私の理想は北山の長明さんであり、ウォールデンのソーローさんなのです。しかし実態は物に溢れかつ縛られ捨てられず、それでいてなお欲すると言う無間を彷徨っています。
しかし、まあ欲が無くなると人もお終いと言いますからある程度は仕方ないのかもしれない、身に合った欲であればそれほど害は無いだろう、と自分を納得させて今まで生きてきました。はたして、私の身の回りには物が散らかり、整理がつかず、理想の方向とは似ても似つかない有り様となっています。これではいけない、あの理想とした世界実現の思いはどうなった、とわが身に問いかけたのです。しかし長年ついた習慣は変えられず、思いはすでに色あせボケて形を為していません。
 そこで初心に帰る、再度書物に目を通して心を新たにすることを考えたのですが、本編を読む前にちらと読んだ付録の解説書(最初読んだ時はロクに目を通してなかった)に、とんでもないことが書いてあったのです。長明さんの隠遁の原因は、言ってみれば出世が叶わなくなったことであり、徒然の兼好さんはしっかり衣食は確保しての遁世で、その後も高師直らとの親交が有ったりして、なかなかしたたかにお暮らしになっていたようなのです。長明さんも鎌倉の将軍さんと親交が有ったようで、みなさん書いていること其の儘とは少し違う過ごし方をされていたようです。しかしそれで残された書き物に信頼性が無くなる訳ではなく、それは、人は様々な面を持っている、また持たなければ生きていけない証とも言えるのでしょう。ソーローさんもウォールデンの暮したのは2年余りで、その後は普通の生活をされていたようです。
 理想と現実との距離は遠ければ遠いほど人生は充実する、なんて誰か言って無いですか。

未来を見つめて。しかし何が長明さんよ、馬鹿みたい。