春雨に・・・

 その昔、ずっとずっと昔のこと。高校のクラスに落書きノートが置いてあり、みんな好き勝手なことを書いていた。いっぱしの文学青年気取りも居たし、訳の分からないことをくどくど書くのも居て、なかなか面白い読み物だった。
 春雨に 衣はいたく通らめや
 七日(なぬか)し降らば 七夜来じとや
という歌を書いたのが居た。男なのか女なのか結局わからなかったが、字からすれば男らしく、私は現代語訳として
雨が降るから会えないの 来ないあなたは野暮な人
と、当時流行っていた藤圭子の歌の歌詞をつけて、ああでもないこうでもないと書きつけた記憶がある。この歌が万葉集の中にあると知ったのはそれから20年以上も経ってのことで、自分の無知さを露呈した恥の記憶として時々思い出す。
 考えてみれば、あの頃は早熟な高校生が多くいたと思う。哲学や経済学を生かじりで議論をし、もちろん文学論なども盛んに知ったかぶりでが鳴り合っていた。携帯もスマホも“ウォークマン”さえ無い時代の、今からすればのんびりしたゆとりのある時間であったと思う。落書きノートなどは当世風に言えばSNSやフェイスブックに当たるのだろうか、旅館や山小屋ななどでは今でも時々見かける。こういったノートに下手な歌あるいは駄文を書いて楽しむという文化は、かなり文化的な遊びであり、若い感性を刺激するものであったように思う。スマホを片時も話せない若者たちには縁のない世界でもあろう。
 天つ風 JKのミニスカ吹き上げよ
 乙女の太もも しばし留めん
などとしか思い浮かばない老人が何を言っても仕方ないとも思う。春雨の季節もまだ先だし・・・。

蠟梅は咲き始めたけど